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「それは100パーセント可能なことだ」。Sextileがインディペンデントであることへの愛を語る

今年4月に初来日を果たしたLAを拠点にするバンド、Sextile。出演した『Sextile in Japan』、『SUPERFUZZ 6th Anniversary』の両パーティともに、ダンスとパンクの自由とエネルギーを融合しモダナイズした新曲もしっかり盛り込み、2025年のパーティスタイルで満員のフロアに熱狂の渦を巻き起こしてくれた。そして彼らは帰国後の5月2日にニューアルバム『yes, please』をリリース。前アルバム『Push』での、パンクなマインドとともにダンスミュージックやクラブ/レイヴカルチャーに接近した路線を推し進め、さらに多様なバックグラウンドを感じる内容に。そんなアルバムの魅力や音楽のルーツ、バンドを運営していくうえでの方針などについて、メンバーのBrady KeehnとMelissa Scadutoに語ってもらった。

通訳・インタビュー:BLUEMEW
編集・インタビュー:TAISHI IWAMI


Brady:オーディエンスがとてもエネルギッシュで最高でした。パリやLA、メキシコシティでのライブに匹敵するくらいみんなノリノリ。クラウドサーフィンができた場所は、これまでのキャリアの中でも両手で数えられるくらい。それはショウがうまくいった証拠だと思います。

Melissa:もっとたくさん公演したかったね。

Brady:東京はほかの都市よりもさらに、観客が敬意を払ってくれていると感じました。うん、100パーセントそう思う。

Melissa:LAやアメリカのほとんどの都市では、みんな周りのことなんて気にしてなくて荒っぽいから。

Brady:客層が若いという意味では、LAでやっている感覚に近かったね。

Brady:SextileのグッズはすべてMelissaがデザインしていて、素晴らしい才能だと思います。

Melissa:今私が着ているSextileのTシャツは自分用に作ったもの。Minor Threatから影響を受けたダメージを入れているのですが、Minor Threatではなく、“友達のIan MacKaye”と書きました。そしてAndy Warholのようなシルクスクリーンプリントだから、ウォーホールシャツと呼んでいます。シルクスクリーンプリントについては、キャリアをスタートさせた頃のVivienn Westwoodも大好き。もともとは、それらから影響を受けつつよりDIYなやり方で、自分のためだけに作っていたのですが、その手法で作ったものが周りからいちばん好評だったから、マーチャンダイズにも採り入れることにしました。

Melissa:私の母は服を安く仕入れ、フリーマーケットに出店して高く売ることが得意だったんです。そんな母の影響でビンテージの服を好きになって、私もフリーマーケットに出入りするようになったのですが、本格的に洋服を好きになったのは、音楽にはまってからですね。The Velvet UndergroundやThe Clashが好きで。The Clashに熱中し出したのは12歳くらいのときでした。彼らのサングラスやストライプのシャツがすごくカッコよかった。あと彼らはアームバンドやシャツにスプレーで文字を書いていたけど、それってSex Pistolsと親密だったVivienn Westwoodのスタイルにも似ていて、そのあたりのパンクシーンにおけるファッションの共通項にも興味を持つようにもなったんです。すべては音楽から。音楽はファッションだけでなく、私を読書や映画鑑賞にも導いてくれました。好きなバンドがファッションや映画や書籍について話すたびに、私はそれらを掘り下げることに夢中でした。

Brady:Richard Hellからの影響は?

Melissa:もちろん。彼はバンドメンバーのシャツに火をつけるのが好きだったよね?ライブの前にシャツに火をつけて、メンバーたちをボロボロに見せようとしていた。

Melissa:いや、私のはボディがかなり古いだけ(笑)。でもダメージシャツを自分で作ることはあります。

人々が踊れる音楽を作る

Brady:『3』は僕らにとっても大きな意味を持つレコードだから、すごく嬉しいです。

Melissa:『3』は、セクシャルな音とはこういうものだと思うようになった作品です。その前に出したファーストアルバム『A Thousand Hands』とセカンドアルバム『Albeit Living』は、正直に言って少し混乱していたけど、『3』で自分たちが作っている音楽が何なのか、はっきりしました。

Bardy:僕らがやりたかったことや伝えたいエネルギー、音楽を制作するということの価値が大きく向上した作品だと思う。

Melissa:他人を巻き込むことなく、私たち2人だけで作った最初のレコードです。

Melissa:LAは最高。いいバンドがたくさんいます。Kumo 99というバンドを聴いたことはありますか?シンガーは日本人で、確か去年来日もしていた。

Melissa:LAでいちばん好きなバンド。あとはNuovo  TestamentやSolterraも、ほんとうに素晴らしい。

Brady:プロデューサーだと、Airballがいいね。

Melissa:彼は私たちのシングル「Crassy Mel」のリミックスも手掛けてくれました。Automaticのレコードもプロデュースしています。彼はIce Wallという新しいバンドもやっていて、それもおすすめです。

Brady:Ice Wallもそうだけど、LAにはよりライブ感のあるテクノ/エレクトロニックミュージックのシーンがあっておもしろい。

Brady:『3』をリリースしたあと活動休止期間に入りました。それから何年か経って『Push』の制作で復帰したときに、もっともたくさん聴いていた音楽はディスコでした。同じタイミングで、僕らのリスナーが私達の電子音楽的な側面や、ダンスミュージックとしての側面に共感していることに気づいたんです。多くのDJも私たちの曲を好んでプレイするようになり、だからそういう方向性で音楽を作りたいと思いました。子供の頃からパンクと同様、The Prodigy、『Matrix』や『Swordfish』のサウンドトラック、ATBやRobert Milesのような初期のトランスにも夢中だったこともあって。つまり、人々が踊れる音楽を作るというアイデアが重要になりました

Melissa:Sextileを始めた頃はDepeche Modeから大きな学びを得ていた時期で、私たちの周りはDepeche Mode一色でした。今でもDepeche Modeは大好きだけど、ある時期から興味の中心が、UnderwoldやOrbitalといった90年代のテクノ、ダンスミュージックへと移っていきました。ドラムンベースやThe Prodigyもそう。The Prodigyの『The Fat of the Land』を聴くたびに、あのサウンドは誰にも似ていないし、今の時代との結びつきが強いように感じます。90年代のベルリン、Atari Teenage Riotと現在のBrutalismus 3000に感じる文脈は、私にとって新しいパンクに聴こえました。そして言っておかなければならないのは、『Push』のサウンドに表れているわけではないかもしれないけれど、Happy Mondays と Primal Scream が大好き。Primal Screamの『Screamadelica』は、これまでほかに聴いたことのないようなレコードであり続けていて、今でもとても新鮮だから。

Brady:『Scremadelica』は1991年か。タイムレスだね。

Melissa:そう、Happy MondaysもPrimal Screamもタイムレス。そしてダンスミュージックとレイヴにある自由を体現している。なおかつロックンロールの要素も持っていて、ほんとうにユニーク。その多様性が大好きなんです。Happy Mondaysは、あの「どうでもいい」ってアティチュードも私たちに影響を与えていると思います。彼らのようなサウンドを目指したときに、あまりにも彼らに似すぎてしまって没にしました。それもあって、彼らの音楽そのものよりも精神性を体現しようとしたんだと思います。

Brady:とは言え、 僕らがそのアティチュードを積極的に意識して振る舞っているわけではないけどね。うん、あの手のサウンドにはまだまだ探求の余地がある。それが今後の作品にどう活かされていくか、自分でも楽しみです。

狂ったように聞こえるけれど、それはらすべて真実

Melissa:あなたたちのDJも、テクノの色が強いのかと思っていたら、ブリットポップもかけてましたよね?それが私の好みなんです。すべての音楽が大好き。2025年現在、カッコいい音楽がたくさんあって、私にとってはそれらのすべてが一つで同じ世界のもの。クロスオーバーがほんとうに重要で、それが今のこの世界だと思います。

Brady:その歴史は長い間続いてきたように思います。1970年代後半のNYのノーウェーブもそう。インディーとダンスミュージックが混ざったような感じだったけど、今よりももっと実験的だった。そしてあそこからダンスミュージックとパンクの融合が始ったのかもしれない。そして1980年代へと続いていく。そこでLiquid Liquidの名前が思い浮かばないわけがない。James Chanceのキャリアも最高。僕らは常にそのようなものからインスピレーションを受けてきたし、クロスオーバーはもっと探求できる。そして、私たちは今まさにそれをやっていると思います。

Brady:13曲を収録したこれまでのキャリアでもっとも長い手間暇をかけたアルバムです。歌詞もこれまででもっとも多く書きました。イントロからアウトロ、最後まで一貫した流れがあって、新しいジャンルにもチャレンジした作品です。例えば「Penny Rose」は95BPMくらいの曲で、ほぼラップのようなボーカルのスタイルを試しました。

Brady:Melissaが養護施設にいた頃に書いた曲で、アルバム制作中に初めて聴きかせてもらいました。とても美しく歌詞も素晴らしかったから「これはアルバムに入れなければ」と思ったんです。

Melissa:みんなはこの曲をThe Velvet Undergroundみたいだって言うけど、私はカントリーソングとして書きました。現代ではなく昔のカントリー。この曲は私が車椅子に乗っていた頃に書いたものだったから、再録音して仕上げるときに悲しい気持ちになりました。シンセサイザーを使っているけどダンサブルではなくとても悲しい、でも、本物の曲です。

Melissa:Bradyが言った、私の住んでいた施設は州の資金で運営されています。アメリカの医療制度が悪いのは明らかだけど、ここは特にひどくて。グリーンカード保持者や元受刑者、家族がいない老人らが住む場所。私は健康保険がなかったから収容されました。私の足は事故で曲がらなくなり、今もあるところまでしか曲げられません。この曲はそこで過ごした日々について歌っています。私はマリファナを売っていました。薬物を買うこともできました。もうめちゃくちゃ。だから狂ったように聞こえるけど、すべては真実。だから悲しいんです。

Brady:まさにその通り。現実が僕たちのライブパフォーマンスやレコードに影響を与えています。ライブでのオーディエンスの反応に刺激されたことによって、そんな反応を引き出せるような音楽を作りたい思うようになったんです。このアルバムの多くの曲は、ニューヨークのハウスパーティやアパートパーティ、どんなパーティでも、その場にいてThe Raptureの「House of Jealous Lovers」のように、それがかかるとみんなが話を止めて踊り、歌い始めるような感覚を目指しています。パンデミックがあって長い間感じていなかったエネルギーを取り戻し、みんなが一緒に踊り歌えるようなパーティの感覚を持ち込みたいと思いました。

Brady:そう、最近のライブではMelissaが旗を持ってきて振り始めたんだけど。

Melissa:今のアメリカの政治はほんとうによくない。世界の人々に、私が自分の国の政府を支持してると誤解されたくない。だから何も言わないわけにはいかないと思いました。そしてアメリカに限らず、世界中の多くの国がめちゃくちゃだと思うから、ツアーに出たときも異なる国や地方出身の人たちに向けて、自由を獲得するためにメッセージを伝えることが重要だと感じています。世界中の人々は自由であるべき。戦争を支持したり、誰かが他の人より優れていると考えるのは、2025年に生きる人間として、奇妙な考えだと思います。

◆音楽を仕事だと自覚しないと、またウェイターに戻ることになる

Melissa:バンドではないけど、あなたたちSUPERFUZZもすでにそれを実践しようとしていると思います。それは難しいことだと感じませんか?それでも、自分がやりたいことを続け、自分らしさを失わないことが大切。あなたたちはインディペンデントなやり方で私たちのようなバンドを呼んでくれた。そして、そういったことを続けていけば、きっとみんなが幸せになれると思います。

Brady:同じ志を持つ仲間を見つけ、継続的に関わり、ともに働き、何かを築き上げていく。それは毎日続けないといけない。毎日だ。それが自分のやりたいことなら、毎日続けるべき。音楽がやりたいことなら毎日楽器を弾く、毎日歌う、毎日曲を書き詩を書く。そのうえで一緒に働く人々の価値を尊重すること。僕たちは関わってくれる仲間が受け取るべき報酬を得ているかどうか、常に確認するようにしています。

Melissa:私たちは何年もそうしてきました。そうすると自分たちのもとにお金が残らない。それは私とBradyが恋人関係を解消した理由の一つでもあるんです。ほんとうに辛かった。音楽はあらゆる場所に文化を育む素晴らしいものだから、世界中の政府が音楽に資金援助をしてくれたらいいのにと、思います。

Brady:音楽は愛と楽しさと創造性であり、僕らにとってのビジネスは疲れるし単調で繰り返しの多いもの。だから両者は区別しなければならないと思いつつ、それらが一体であると理解すること。自分が何をしているのかを賢く理解しなければならない。自分のブランドを理解しなければならない。それは必ずしもすべてのアーティストがやりたいことではない。でも、これを続けたい、やりたいと思うなら、ビジネスとして成立させなければならない。その中で、情熱を失ってはいけないんです。

Brady:僕らにはマネージャーがいないので、予算管理は自分たちでやっています。人を雇うのも、機材の調査も、連絡事項も、Airbnbやホテルの予約もすべてそう。たまに「なんでこんなことをしているんだろう」と思うこともあるけれど、そのたびに「もうウェイターやバーテンダーに戻りたくない、あの頃に戻りたくない」と思う。この仕事のほうがずっと好きだから。音楽を作ったりコミュニティに関わったりしながら、すなわちやりたいことをやっているだけだと感じながら、なぜかそこから収入を得ている。そんな不思議な感覚がずっと続けばいいのかもしれない。けど、あるときから自分たちのやっていることが仕事だと自覚しないと、またウェイターに戻ることになる。Melissaはフリーマーケットで服を売るよりもはるかに才能がある。デザインやグッズ制作の才能です。おもに捨てられた服を漁って見つけたものを売るフリーマーケットは、彼女の才能を考えるとエネルギーの無駄だと思う。そこに労力を割くことは、アーティストとして後退に繋がる可能性があるから。

Brady:だから、ビジネス面と向き合うことは必要不可欠だと思います。でも、バンドには運営マニュアルや初心者向けのガイドブックのようなものは存在しない。言い方を変えると、すべてのミスが僕らにとっての学びの機会になる。どこで演奏しても、どこへ行っても、何をやっても、僕らは何かを学び、効率的なビジネス運営の方法を築き上げていくことができる。友達にも僕らにも正当な報酬が支払われる状況を作り、ほんとうの意味でみんなが楽しめる方法を模索し続けることが大切。話が長くなったけど、最も重要なポイントはそれが可能だということです。音楽とビジネスを両立させることは100パーセント可能です。そのエネルギー源はみんなの頭と心の中にあると思います。

ライブ写真: Mori Tomoki